第2.4節 フラットとツリーとの両立
ページという単位で情報のまとまりを作り、そのページ相互間をフラットに扱うのがScrapboxである。ではページの中はどうか。
Scrapboxのページは、フラットに書くこともツリー状に書くこともできる柔軟なキャンバスである。ページの要素は7つ。タイトル、本文、テロメア、Links、検索窓、メニュー、そしてScrapboxメニュー。
タイトルには文字通り表題を記載する。そのタイトルと同じ文言が他のページでタグとして書かれた場合にリンク先になることを意識することが大切だ。またタイトルはそのページのURLとなる。日本語URLも問題ないので、タイトルのつけ方は自由だ。
本文の内容もまた自由。テキストで文章を書くほか、画像や動画を貼ることもプログラムを書くこともできる。文章はブラウザの画面に直接書く。画像はデスクトップからブラウザにDrag & Dropしてもいいし、コピーしておいた画像をブラウザ上でペーストしてもいい。Nota社が運営する「Gyazo」サービスに画像が自動的にアップロードされ、そのURLがScrapboxの該当箇所に貼られることにより、Scrapboxはその画像を表示する。同様にweb上の他所にある画像のURLを貼り付けることによっても、Scrapboxに画像を表示することができる。動画はYouTubeのリンクを貼れば、そのままエンベッドして表示される。画像も映像も、Scrapbox上に貼り付けられるのはあくまでもURLという文字列である。画像や映像を複製しない。Scrapboxはすべての情報をテキストのみで扱う仕組みだ。だからデータのサイズが小さく抑えられ、環境を問わず快適に動作するのだ。 Scrapboxでは、内容の如何を問わず、段落(行頭から改行まで)が情報のまとまりの最少単位になる。段落の頭には「・」が付き、段落ごとに固有のURLが付与され、最終編集日時を表示可能。段落左端にあるテロメアにマウスオーバーして表示される付箋にマウスオーバーすると、厳密な最終編集日時が表示されるし、それをクリックすると、その段落に付与されたURLがURL欄に現れる。そのURLを他のページや他のサイトに貼れば、その段落を直接参照できるのだ。
また段落の最終編集日時から時間が経過するにつれて、その段落左端のテロメア自体が細くなっていく。情報の鮮度を直感的に表現するのだ。最終編集後に初めてそのページを開く時には、普段はグレー色のテロメアがグリーンに変わるので、初見の段落を見逃すこともない。
テキストエディタ、あるいは法律文書の起案環境としてScrapboxが魅力的である理由のひとつは、段落の自在な移動機能にある。任意の段落にカーソルを置いた状態でcontrol+↑・↓・←・→を押すと、その段落が上下左右に移動するのだ。例えばブレインストーミングのように思いついた項目を改行しながら列挙した後、control+↑・↓によって順序を入れ替えつつ、内容のまとまりを作っていく用途に向いている。またcotrol+←・→によって、段落をインデントできる。大項目の下に中項目(子項目)を、その下に小項目(孫項目)を、といった階層を容易に表現できるのだ。ブレストの例であれば、前述の方法で項目を集めてまとまりを作った後、そのまとまりに見出しを与え、各項目は右にインデントして箇条書きとするといった用法だ。またoption+↑・↓・←・→なら、下位の項目を伴ったまま段落の移動ができる。なお、段落の頭にtabや半角または全角のスペースを置く方法によっても、その段落が右にインデントされる。
段落移動機能のおかげで、ページ内の情報を階層構造によって扱える。いわゆる「アウトライン・プロセッサ」(アウトライナ)なのだ。それもweb上でツリー状に情報を扱う他の環境より、自由度が高い。例えば、他の環境の多くは項目の下に作れるのは1段階下の子項目だけだが、Scrapboxは何段階右にずらしてもよい。また段落冒頭にはデフォルトで「・」が付くが、半角数字+半角ピリオド+半角スペースを段落冒頭に書くと、「・」は消え、数字による箇条書きに変身する。数字は連番である必要がない。
本文の下にはLinks。前述のようにリンク先のカードが並ぶ。本文中に書かれたタグに該当する項目と、そのタグを持った他のページがカード状に表示されるのだ。これによって関連ページが一覧され、容易にページを遷移して閲覧や編集が可能である。
ページ上部中央には検索窓が配置されている。プロジェクト内にある特定の文字列を検索によって抽出できるのだ。
ページタイトルの右端にある2つのメニュー。上のメニューを押すと、ページの作成時と最終編集時が相対日時で表され、作成者と閲覧数が表示される。下のメニューには、「Copy link」、「Start presentation」、「Hide dots」、「Drawing」、「Duplicate this page」、「Pin at home」、そして「Delete this page」が並ぶ。Copy linkはそのページのURLをクリップボードにコピーする。Start presentationはプレゼンテイションモードに移行して、各項目をプレゼンテイション用スライドの体裁で表示する。Hide dotsは各段落冒頭の「・」を非表示にする、Drawingは描画機能、Duplicate this pageは、そのページと同じ内容のページを作成する、Pin at homeはトップページで各ページがカード状に並ぶ時にそのページを先頭に固定して表示する機能。
最後に画面左上のScrapboxメニュー。各種の設定をしたり、他のScrapboxプロジェクトに移動できる。
個々の情報はページ単位でフラットに扱い、その属性をタグ付けすることによってグルーピングを可能とし、情報の内容に関しては段落を自在に動かしてツリー構造を柔軟に表現できる。Scrapboxはフラットとツリーの両立を実現しているのだ。
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